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体罰と法~体罰による自殺のニュースを見て [時事ニュースから]

 部活の顧問から受けた体罰がきっかけとなった高校生の自殺のニュース。この件に関連する報道では、橋下市長は、体罰は許容されることではないとの前提で発言をされているようです。当然の態度だと思います。
 最近でも体罰許容論を言う「識者」などもいましたが、暴力が人を誘う力は恐ろしいもので、やっぱり、きちっとした線引きをして、教師らの活動において、暴力への誘惑を断ち切る必要性を私は改めて感じました。
 
 先生でも、子どもと接しておれば、色んな場面がありますから、子どもの態度によっては、ときに、「殴れるものなら殴りたい」と思うことも必ずあると思います。それが「暴力への誘惑」で、誰にも存在するものだけに、体罰禁止の法の趣旨は大切なことだと思います。
 
 今年の神戸学院大学講義でも少し取り上げました。そのときに調べたことを元に、参考までに、「体罰と法」について簡略なまとめをしますので、興味のある方はご覧下さい。

 体罰は違法であることについては、多くの方が、おそらくそうだろうと思っておられると思います。

 では、少し詳しくして、

「教育において、生徒に、口頭注意だけではなく、実力を行使することは違法か?
 程度や目的等によって差があるのか。」

というとどうでしょうか。
 法の規定などを確認しながら少し解説します。

① 基本となる法律の規定

 学校教育法 第11条

 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。 

 
 これが法律です。
 懲戒=懲らしめること は必要に応じて許容されています。
 でも、体罰はこの条文から違法であることが明らかです。
 では、「懲戒」とはどの範囲で、どこからが「体罰」(違法)なのか?ということが問題になってきます。
 この区別の基準になるのが次の文科省通知です。

② 文科省通知(平成19年2月5日)
 「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」
 別紙「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方」
(抜粋)
1  体罰について
(1)  児童生徒への指導に当たり、学校教育法第11条ただし書にいう体罰は、いかなる場合においても行ってはならない。教員等が児童生徒に対して行った懲戒の行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。
(2)  (1)により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とする懲戒(殴る、蹴る等)、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する
(3)  個々の懲戒が体罰に当たるか否かは、単に、懲戒を受けた児童生徒や保護者の主観的な言動により判断されるのではなく、上記(1)の諸条件を客観的に考慮して判断されるべきであり、特に児童生徒一人一人の状況に配慮を尽くした行為であったかどうか等の観点が重要である。
(以下、省略。抜粋終り。)

 さらに文科省の通知には具体的な例示等があるのですが、ここでは省略します。
 身体に対する侵害を内容としたり、肉体的苦痛を与えることを内容とする懲戒は基本的に体罰に当たるというわけです。今回のニュースの件は言うまでもありません。
 

③ 裁判例

 裁判例を調べ上げたわけではありませんが、最高裁の判例があるので抜粋して紹介します。
  
《平成21年4月28日最高裁判決》
 (抜粋)
前記事実関係によれば,被上告人は,休み時間に,だだをこねる他の児童をなだめていたAの背中に覆いかぶさるようにしてその肩をもむなどしていたが,通り掛かった女子数人を他の男子と共に蹴るという悪ふざけをした上,これを注意して職員室に向かおうとしたAのでん部付近を2回にわたって蹴って逃げ出した。そこで,Aは,被上告人を追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(本件行為)というのである。そうすると,Aの本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという被上告人の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって,Aのした本件行為に違法性は認められない。
                                                    (抜粋終り)

 下線を引いた行為が教師の行為です。
 生徒の胸元を右手でつかんで壁に押し当てた、これは確かに「実力行使」です。
 しかし、これは「実力行使」ではあるものの、肉体的苦痛を与えるために行われたものではないと最高裁判所は認め、体罰に当たらない、とされたものです。
 
 ただし、この裁判でも最高裁以前、1審、2審はこれを「体罰」としていました。そうすると、このケースはどの程度の有形力の行使が「体罰」に該当するかの限界事例に近いといえます。

 はっきり言って、この最高裁の事例などのような場合は、教師が、瞬時の判断の中で、おそらくは色々なジレンマの中で取った行動であり、実力行使の程度からしても、最高裁の判断が妥当なのだと思います。
 
 ですが、もしハナから「体罰はアリ」という考え方の下で教師が行動するなら、話は全く違ってきます。この事例でも実力行使の程度が全く違ってきていたことでしょう。
 
 学校現場の規律を守る必要はあり、教師がある程度強い指導力を発揮する必要もあるとは思いますが、教師は知性・理性で生徒を導く存在ですから、「体罰禁止」という縛りはあって当然です。
 
 それでも、生徒が教師に危害を加える場合や、生徒が他の生徒に危害を加える場合に対する対応は、「正当防衛」や「緊急避難」として、法律的にも実力行使は許されます。

 つまり、「体罰を容認するか」という問題は、

生徒を導く手段として、「わざと肉体的苦痛を与える」という手段を許容するか

という問題です。

 それは許容しないのが学校教育法の趣旨であり、私はこの法の趣旨は正しいと考えています。
 この法の趣旨が貫徹され、今回のニュースのようなことが二度と起こらないように心から望みます。

                              村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所
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コメント 2

ayu15

「正当防衛」や「緊急避難」別にして法的に問題なんですね。
憲法同様
守られてないから問題なのかもしれませんね。

問題だからと厳しい監視と処分で解決というおちになりそうなのが不安です。

なんかこの事例(体罰)はある意味いじめと似てるように見えます。

刑法にいじめと体罰という罪名はないですよね。

暴行や傷害はありますが。


人を殴っても
それは刑法では暴行でも
いじめ・体罰と言われたら?
やったことは同じですが・・。

またこの場合でもうちがかってにいう「被害者指数と加害者・容疑者指数」の乖離も感じます。




by ayu15 (2013-01-13 09:31) 

hm

ayuさん 
 ナイス・コメントありがとうございます。
 おっしゃるとおり、暴行罪や傷害罪そのものです。
 教育という名を借りて暴行や傷害が許される、などと思うと、人間、当たり前の感覚が狂ってくるということがあるのではないでしょうか。

 
by hm (2013-01-16 12:51) 

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