So-net無料ブログ作成
検索選択
時事ニュースから ブログトップ
前の10件 | -

相続税対策の養子縁組~最高裁平成29年1月31日判決 [時事ニュースから]

 先日の記事で、最高裁平成29年1月31日決定(グーグルの検索結果削除の件)について書きました。
 
 同じ日付で、もう一つ注目の最高裁判決がありました。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86480

 「相続税対策の養子縁組」というのは、実際には、かなりの数あると思われます。

 相続税には、「基礎控除」というのがあって、平成27年以降の相続だと、

 3000万円 + 600万円×法定相続人の数

の遺産について相続税控除がなされます(相続税がかからないことになります)。

 つまり、子(養子でもいい)が増えれば増えるほど相続税がかからない財産が増えるので節税になるというわけです。
 
 
 もちろん、普通は、養子縁組届をするときに「相続税対策です」「節税対策です」と公言するものではないので、ほとんどは人の心の中の問題です。

 この事件は、高等裁判所で、「専ら相続税の節税のためにされたもの」であるとして「当事者間に縁組をする意思がないとき」にあたると判断され、養子縁組が無効であるとの厳しい判断がなされていました。
 そして、高裁で無効だといわれた「養子」の人が最高裁に上告した、という流れです。

民法802条 縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
 1 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき
 2 省略

 
 最高裁は、この場合の養子縁組を無効ではない、と判断しました。

 理由は、

相続税の節税の動機 と 縁組をする意思 とは 併存し得る

というものです。

 「併存する」というのは、「日本で、仏教も存在し、神道も存在する」、「彼を愛してもいるし、憎んでもいる」というようなもので、「どっちもある」「一緒に存在する」という意味です。
 
 ですので、

確かに節税目的ですね。
でも、だからといって、「縁組をする意思」が嘘だったかといえば、そうとはいえない。
「節税目的」もあるし「縁組をする意思」もある。

という判断です。

 節税目的の養子縁組 ≠ 偽装の養子縁組

というわけですね。

 この事件は、養子縁組をしたこと自体は本当に本人(養親と養子)がしたことに違いはなく、動機が「節税対策」だったとしても、縁組をしようと思ったことに変わりはないという話ですから、「無効」というのは厳しすぎるように思います。
 最高裁の判断は妥当だろうと思います。

 「節税目的の養子縁組なんてけしからん」「私はそんなことせずに相続税を納めているのにずるい」という声はあり得るでしょう。
 ただ、民法802条の「縁組をする意思がない」とまで言えるか、というと、それは違う、ということです。

 もし、養子縁組制度の運用として、情愛のある親子関係を真に結べるような養子縁組だけを認めていく(それ以外、節税など別の動機が強い縁組は認めない)という方向にするならば、法律を改正する必要があるのだと思います。

 正直言って節税目的だろう?と思われる養子縁組だとしても、正面から争われ最高裁まできたというケースは今回が初めてだったので、注目されていた判決でした。

神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹


検索削除についての最高裁(平成29年1月31日付決定) [時事ニュースから]

 Googleの検索結果で、逮捕歴(児童買春)などが表示されてしまうことについて、男性が削除を求めた仮処分申し立て事件で、最高裁の判断がありました。

 削除を求める権利について、ヨーロッパでは「忘れられる権利」と呼ばれEU司法裁判所が認めたといわれていますが、最高裁は「忘れられる権利」については言及しませんでした。
 
 このケースで削除が認められるかは地裁・高裁で判断が分かれていて、どうなるか注目されていました。
 
報道されているニュース内容 ↓など
 http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/nation/mainichi-20170201k0000e040246000c.html

 
 Googleなどの検索エンジンで、自分の逮捕歴などが表示されてしまうことについて、男性は「人格権の侵害」だとして削除を求めていました。

 ここでいう「人格権」というのは、憲法や法律に直接定めがないけれども、憲法13条「幸福を追求する権利」として守られるべき、その人の人格にとって重要な権利、という意味です。
 そして、この場合は、いわゆる「忘れられる権利」に近いものでないか、と言われています。
 従来の言い方からすれば、「プライバシー権」の一種ともいえます。

 対して、Google側の主張の一つは、

検索エンジンは、インターネット上にある情報を整理して表示するだけで、自ら表現しているわけではない

価値中立的なものだから、表示結果にエンジンを作った業者が責任を負うわけではない

というものでした。
 「何も、Google自らが男性のプライバシーや名誉を害する記事を作ったりしているわけではないし、検索結果が表れるのは「みんな」が作ったネット上の表現の自動的な結果だ」ということです。

 ただ、そこは最高裁はそうだとは認めませんでした。
 簡単に言えば、

検索プログラム自体をGoogleなど業者が作っているから、検索結果の表示はやっぱり業者自身の「表現行為」といえる

という判断をしてします。

 だから、

検索事業者の「表現の自由」   vs   個人の「プライバシー権」

の衝突する場面になるから、利害調整しなければならない、と最高裁は言っています。
 そして、「プライバシー権」を保護する必要のほうが大きい場合には、削除を認めるべきだ、としました。
 その判断要素は、

事実の性質や内容
公表で受ける被害の程度
削除を求める人の社会的地位・影響力
記事の目的や意義  
                など

と今回の最高裁は示しています。
 これらのいくつかの要素を検討(比較較量)して、総合判断で決めるべき、ということです。

 結局、この事件では、男性の児童買春の事実について、最高裁は、「社会的に強い非難の対象」「今も公共の利害に関する事実」だとして、そこを重視して削除を認めませんでした。
 
 ここでは、

Googleの表現の自由 > 男性のプライバシー権

という判断がされた、というわけです。

 この事件も、地裁と高裁で判断が分かれていたくらいですから、削除を認めるべきかどうか微妙な事案だったということだと思います。
  
 ネットの検索情報は、書かれた人にとって、とても大きい利害にかかわる場合がありますから、今後も、「削除を求める」例はたくさん出てくると思われます。
 今回の最高裁決定は、そういう事件の「先例」になる重要な決定となると思われます。

 神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹
                             

弁護士ドットコムニュース「改憲と教育無償化」 [時事ニュースから]

 弁護士ドットコムニュースにコメントしました。

「改憲」で幼稚園から大学まで「教育無償化」案、憲法で定める意味はあるの?
https://www.bengo4.com/internet/n_5581/


 幼稚園から大学まで教育無償化するために憲法を変える必要があるか?

と聞かれれば、

 その必要はありません

という答えになる、という話をしています。

 憲法は、基本的には、
「国の権力の暴走をストップさせる」
「国民の権利・自由を確保する」
というためにあるものです。
 これを立憲主義といいます。

 ですので、教育無償化のように、国が国民に利益を与える、あるいは、国民の学習権を充実させるということは、憲法に規定がなくても、国はそれが良いことだと思えば「やってかまわない」ことになります。

 もちろん、今の憲法の教育無償の範囲を拡げることは基本的に良いことだと思うので、条件が整えば、そういう憲法改正には賛成です。

 ですが、教育の無償化拡大そのものは憲法を変えなくても実現は可能です。

 実際には、教育無償を拡大するためだけに憲法改正するということは現実にはなく、憲法全体を改正することがあればそのタイミングで教育無償の範囲を拡げる改正も考える、という事になると思われます。

 神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹

 


マイナンバーがいよいよ [時事ニュースから]

 マイナンバー制度がいよいよ始まる、というのですが、何がどう始まるかも分からないという人がまだ大半の状況だと思います。
 恥ずかしながら、私もそれに近い状態だったところ、昨日は、ある勉強会で、自治体のマイナンバー担当の方の詳しい解説を聞くことが出来ました。これからのスケジュールの流れや、マイナンバー制度の全体像など知りたい情報を分かりやすく伝えてもらえました(感謝)。

 まず、一番至近に迫っていること。

・ マイナンバーの通知カードは10月1日以降(11月末ころまでに)住民票の住所地に送付される。

ということだそうです。
 で、「住民票の住所地」というところが大事で、色々な事情で住民票と実際の居場所が違う人も居ると思います(単身赴任、入院・施設入所中、何かから避難している、など)。
 その場合は、9月25日まで(着。シルバーウィーク明けてすぐ!)に、市役所等に、「自分の居所に郵送して下さい」という申請を出す必要があるのだそうです。以下、総務省HPご参照http://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/08.html

 平成28年1月以降の税金や社会保険の各種の手続の際に、マイナンバーを記入する等の必要が出てきますから、マイナンバーの通知カードを受け取らないと不都合が起きることになります。

 今後、マイナンバーにより、各個人の、社会保険、税の情報や、預金、不動産登記、自動車登録等様々な情報について、「同一人の情報だ」ということが番号で特定されるようになります。
 
 だから、「マイナンバーで個人情報が丸裸」ということが心配されるわけです。

 12月頃には、各地の弁護団がマイナンバーの施行を止めるべく訴訟を提起すると見込まれています。個人のプライバシー侵害の危険がある、という主張になると思われます。
(弁護士会も、マイナンバー制度導入時に、やはり危険性が否定できないとして反対・慎重などの意見を出していました。)

 これに対して、マイナンバー性とは、公務員が誰でも、個人の全ての情報を一覧できるような仕組みにはなっておらず、法律の定めた目的や範囲においてしか情報は使われないという制度にはなっています。
 暗号化などの技術を駆使して、情報漏洩も防ぐための工夫を何重にも行っている、とのことだそうです。
 個人のプライバシーがマイナンバーのせいで漏洩することを防ぐということについては、国も自治体も、細心の注意を払っている、ということは、その通りのようです(そうでなければこの制度を実現できるわけがありませんから、これは当然でしょう)。

 ただし、人が作ったセキュリティが人に破られないか、ということは、まさに「技術的戦い」のようなものです。
 この「技術的戦い」において政府が構築するシステムが盤石のものといえるかどうか、が非常に重要だと思われます。
 この点は、これからマイナンバーについて起こるであろう裁判では間違いなく重要な争点になると思います。
 それと、情報を不正に取得することや不正に利用するには厳しい罰則が定められていますが、その「抑止力」によって、危険がどの程度まで防げると評価されるか、というあたりも同様に重要な争点になると思われます。
 
 そんなこんなで、これからどうなるか流動的な部分のあるマイナンバー制度ですが、差し当たって番号通知カードはちゃんと受け取れなければ困ることになるようです。
 制度的にどうか?どうあるべきか?も今後しっかり見極めて、その用いられ方についても国民の立場から必要な意見を言ったりもしなければならない問題だ、と思っています。
                                            
                      弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所


 
 

    

若者たちの「反政府運動」 参加を理由に企業が「採用拒否」するのは許される?~弁護士ドットコムニュースのコメント [時事ニュースから]

 政治活動と企業の採用拒否のテーマについて、コメントをしています。

 今はfacebookなどの投稿によって、簡単に自分の情報が世界中に発信された状態になってしまうので、そのことについては警戒心を持たなければならないと思います。
 
 一方で、18歳選挙権の話題でも述べたように、若者がそのときに思ったことを言い、自分の考えに沿って政治活動を積極的に行うことはいいことで、それが萎縮させられるようなことはあってはならないと思います。
 
(コメントしたニュース) 

若者たちの「反政府運動」 参加を理由に企業が「採用拒否」するのは許される?


http://www.bengo4.com/roudou/1099/1226/n_3321/


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150630-00003321-bengocom-soci

                                   弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所

18歳選挙権 [時事ニュースから]

 先日、選挙権年齢について18歳からとする、という法改正がなされました。

 18歳からがいいのか、20歳からがいいのかは、私も正直よく分かりません。

 ただ、この法改正が良い方向へのきっかけになればよいな、と思います。

 一昨年まで大学で講義していたときに選挙が近づけば必ず学生さんに次のように言っていました。

「何党の言っていることが正解かが分からない、という人が多いかも知れません。
 実は、それ、僕もそうなんです。
 20歳やから分からないというのではなく、30歳でも、40歳でも、正解はわからへんのです。
 ただ、自分の今の時点の考えに近い政党や候補者に投票するしかない。
 または、『一番マシやな』と思える人でもよい。
 それでも、投票して参加することをオススメします。」

「投票するとニュースの見方が変わります。
 自分が投票した政党や、候補者の行動がニュースで報道されると気になるようになります。
 それで、『やっぱりあの一票は正解だった』と思えればそれでよし、『あの一票は間違いだった』と思えばまた次の選挙で違う人に入れれば良い。
 とにかく、いっぺん投票すると、政治のニュースに興味を持てるようになる。
 この0か1かの違いはかなり大きい。」

「なので、選挙権のある人は、ともかく選挙に1回行ってみる、ということをオススメします。」

 
 とにかく、現代ではどうも政治家への世間的印象がいまいち「かっこいい」というものではありません。
 確かに、汚職とか、よくない行動をする政治家もいるのは事実なのですが、基本的には、選挙に出たりするということは大変なことで、それだけで尊敬に値すると思います。
 それが何党であれ、私は本当にそう思います。

 選挙に出れば、プライバシーもない、寒くても雨でも朝早くから辻立ちしなければならない、なのに通りすがる人の中には露骨に嫌そうにする人もいる、それでもめげずにビラ配り・街頭演説をしなければならない。

 普通に考えたら大変なことです。
 ハッキリ言って、真面目に政治を考える人でも、現実面を考えたらまず「立候補なんて無理」ということが大多数なのは当然です。

 立候補する方はこんなに大変なわけですから、それに比べて、一票を投じるだけであれば労力はどれほど小さいことでしょう!
 
 マスコミの皆さんにも、政治家に厳しくするというだけではなく、「立候補して頑張っている」ことそのものへのリスペクトを有権者がもっと持てるような、明るい前向きな報道をより行って頂ければ、と思います。
 
 ただ、その意味では、18歳、たとえば高校3年とか、高校出たてのフレッシュな気持ちの中で、「まずは一票で参加する」という経験を持てるようになることが、その後、「政治に参加する」大人が増えることに繋がることを期待したいと思います。

                                  弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所




もし、日本で「ニート罰金法」ができたら? [時事ニュースから]

 弁護士ドットコムで、ニュース記事にコメントを求められたので、答えています。

 http://www.bengo4.com/topics/3085/

 ベラルーシで通称「ニート罰金法」なる法律が出来たそうなのです。
 一定期間働かないと罰金を課される、という過激な法律です。

 日本でそんな法律ができたらさすがに憲法違反になるでしょうよ、というコメントをしています。

 ただ、世間の風潮として、単純に、

働かないのは悪い 罰金でも課せば良い

という発想になる人も多いだろうと思われるので、

そんな単純なものではないでしょう!

ということを言っておく必要もあるだろう、といったところです。

 職が得られないのを「個人の努力不足」等々と切って捨てるのは簡単でも、切って捨てて解決するものではない。

 社会が個人の努力を促し、また、個人の活躍の場を応援するものにするよう変わっていかなければ、という風にも思います。

                                           弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所
 
  
 

男子だけど女子大で勉強したい!「公立女子大」が男子入学を認めないのは憲法違反?~弁護士ドットコムニュース [時事ニュースから]

弁護士ドットコムのニュース記事にコメントしています。
http://www.bengo4.com/topics/2313/

 難しいテーマを訊かれて苦心しながらのコメントです。
 
 私自身、高校時代は模試の志望校欄に

第1志望 神戸女学院
第2志望 ノートルダム女子
第3志望 お茶の水

などと書いたものです。第5,6志望が京大、東大。
 ふざけていたのかもしれません。
 否、これが、男子校時代の私にとっては、もしかして洒落では無く、本当に行けるものなら行きたい順序だったのかもしれません。
 
 しかし、ここでいう特に第3志望などに、憲法上の問題があるとは夢にも思っていませんでした。

 また、今回のニュースの訴訟のように、真剣な意味で、その人にとって重要な教育の機会の問題として裁判になる、と想像したこともありませんでした。

 「女子大なのだから、男子は無理でしょ!?」というのはそれだけ見れば当たり前のように見えるのですが、そもそも「公立女子大が許されるのか?」は、憲法の理屈上は意外と難しい問題なのです。
 論文などを読んでみると、名だたる憲法学者たちがかなり悩みに悩んでいます。
 
 ところで、とばっちりかもしれませんが、男女別学を話題にするならば、私の母校・灘校のことに思いが至ります。

 大好きな母校に物申すのも勇気が要るのですが、

・ 私立とはいえ影響力の大きい灘校は、より公的な色彩が強いはず(少なくとも阪神間の中高一貫校はみな灘校の動向を注目している)。

・ 灘校で学びたいという思いを持っている女子はたくさんいる。受け入れても良いはず。

・ 力と学ぶ意思があるならば男女問わず受け入れた方が、男女双方にとって良い学びになるはず。

だと思い、灘校が早く共学化すればよいなあ、と思っています。
 (ただ、そう言うのは易く、実際やるとしたら色々大変なのは想像出来ます。灘校関係者の皆さん、外野が気楽に勝手なことをいってすみません。)

 憲法違反だ!なんて言いませんが、より開放された学びの場になったらいいなあ、きっとさらに良い学校になるだろうなあ、という思いです。

 男子校、女子校というのも一つの文化で、それにはそれの味もあります。
 が、教育上の理論など難しいことは抜きにしても、より自然なのは男女共学だろうし、進むべき方向性は共学が広がってゆくことだろう、という風に私は思っています。


                                    弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所

『待望の「iPhone6」求めて徹夜行列——路上を「長時間占拠」しても問題ないの?』(弁護士ドットコム記事) [時事ニュースから]

 弁護士ドットコムで私が取材協力した記事が配信されています。

『待望の「iPhone6」求めて徹夜行列——路上を「長時間占拠」しても問題ないの?』

http://www.bengo4.com/topics/2052/

 
 新機種を求めて徹夜で道路上で待つという行為が法に触れないか?についてコメントを求められたので、回答しています。

 新機種にワクワクするというのは悪いことでは無いと思いますが、人や車両の通行のためにある公道上でやっていいことと悪いことというのは法律で規定されています。
 場合によって、道路交通法違反になるのでご用心、という記事です。

 行列も 法とマナーと 御一緒に

ということで、くれぐれもよろしくお願いします。 

                     弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所

私たちの憲法とは? [時事ニュースから]

 今年になって、書店でも、憲法を題材とした本、憲法を取り上げた雑誌の特集などが目につくようになりました。

 憲法について関心が集まるのは、ともかくも、安倍首相の御陰です。
 前の安倍政権の時も、今回ほどではありませんが、安倍首相が憲法について色々発言をするので、憲法について考えるきっかけが増えました。

 さて、その安倍首相が、憲法の中身を変える前に変えやすいようにしよう、ということで、先に、憲法改正要件の憲法96条を変えて、憲法改正国民投票の発議を、両議院の2/3の賛成ではなく両議院の過半数の賛成で行えるようにしよう、という主張を4月ころまでは熱心にしていました。

 これに対し、私の属する兵庫県弁護士会では、

憲法第96条の憲法改正発議要件緩和に反対する意見書http://www.hyogoben.or.jp/topics/iken/pdf/130620iken.pdf

を発表しています。この意見書の作成には私も関わりました。

 
 簡単に言えば、こうです。

 今の憲法96条の条件では、先の参議院選挙の結果を踏まえても、今、首相が憲法改正の発議をしようと思っても、自民・公明に加えて、みんなの党や日本維新の会などの協力を得なければ、憲法改正の発議はできません。

 ですが、これを変えて「両議院の過半数」で発議できるとすれば、どうでしょう。

 具体的に言えば、現状の議席に基づくと、自民・公明だけで発議できますし、また、仮に公明党が反対した場合に自民・維新という組み合わせでも発議できるようになります。
 また、民主党が政権をとったその瞬間であれば、民主党および社民・国民新党の賛成があれば過半数を超えますから、「民主党主導の憲法改正」も発議できた(しかも、そのときの民主党人気ならば国民投票でも賛成が得られた可能性は高い)、ということになります。

 憲法改正が発議されると国民投票を行うことなります。
 国民投票は、有効投票の過半数の賛成で憲法改正が出来ます。
 ですから、今回参院選のように投票率が50パーセント台ですと、3割の国民の賛成票で、憲法改正がなされます。
 時の過半数の党が賛成して発議した憲法改正案ですから、国民全員(正しくは有権者)の過半数ではなくて、有効投票の過半数なら、それほど難しくないでしょう。

 一般の法律ならば、現状に応じて、スピーディに法律を作ったり改正したりすることは必要です。
 これに対して、憲法は、もっと大きな理念や原則を定めたものですから、スピーディに改正する必要はないのです、国家の何十年の計です。コロコロ変える、ブレることはプラスになりません。変えてもいいのですが、変えるなら、今後何十年の計として変えるべきものです。

 そうであれば、一般の法律と違い、単なる時の多数で変えられるのではなく、特別の多数でなければ変えることのできないようなルールは合理的だと思います。

 なぜなら、憲法は、少数者の人権も含めて保障するものだからです。
 喩えて言えば、「あいつら少数者だから人権を制限しちゃえ」というような声に異論を言わない(言えない)人が5割いても、「さすがにそれはまずいのではないか」という人が1割いたら無茶な憲法改正を阻止できる、というような意味合いで、憲法96条は憲法改正に法律と違った特別の要件を課しています。

 
 タイトルの「私たちの憲法」という意味です。
 
 憲法改正国民投票に参加することで国民が自分の憲法だという実感ができる、という声があります。
 私は、これはそれ自体もっともだ、とも思います。
 きっとそうでしょう。
 
 でも。憲法改正国民投票は体験学習ではなく、その結果によって、本当に憲法の規定が変わるのですから、わたしたちの人権を保障している条文だって、本当に変わってしまう効果を持ちます。
 人権を保障する規定が悪く変えられたら、いくら腕が立つ弁護士が弁護団を組んでも、根拠となる憲法の規定がないのですから、人権侵害を防げなくなるかもしれません。

 だから、憲法改正国民投票にもっていきやすいようにする、ということはやはり危ないことです。

 確かに、憲法や法律を専門的に勉強した法律家でもなければ、一般の国民は、日本国憲法を「わたしたちの憲法」だという感覚で捉えられていない、と思います。

 だから、安倍首相が憲法について積極的に発言することそのものは、私は、ある意味では、(皮肉とかそういう意味ではなく、本当に)、大事な論点を国民に示してくれていると思っています。
 そういうことをきっかけに、「新しい憲法のはなし」ならぬ「わたしたちの憲法のはなし」「これからの憲法のはなし」をあちこちですればよいのです。
 
 私自身は、日本国憲法に問題点もあるし、今私が憲法を書けと言われたら違った規定にするだろう、という点があると思っていますが、この憲法がベースにする根本的な価値観には殆ど賛成ですし、そういう憲法が今存在することは本当に有り難い、と思っています。(なので、「護憲派ブロガー」という位置づけになるようです。) 
 憲法がベースにする根本的な価値観を維持発展させた、個人の尊厳をよりがっちり丁寧に守ろうとする、自由と人権の基礎法の進化形(21世紀形)の「憲法改正案」があるなら、私は改憲に賛成です。
 ということで、私は「改憲派」でもあります。

 憲法は、100ちょっとの条文で、抽象的で骨太なものです。一般法のように細かいことは書いていません。
 なので、「これからの憲法」を考えるときに、

・ 条文の言葉を変える

だけではなく

・ 既に書かれていること、例えば、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するとする憲法25条の中身を、具体的にはどう実現するのかを、国民みんなでよく考え、工夫して充実させていく

ということが大切なのです。
 憲法の条文は既にあるのですが、その中身の実現方法を改良しよいものを作っていくことは、「これからの憲法」を作ること、なのです。

 なので、

「憲法を守ろう」

というスローガンでは、ただの現状維持、保守、なのでつまらないし、それでは「私たちの憲法」ではなく「古い憲法」がそこにあるだけになるのですが、

より創造的に憲法を活かすこと(それを多くの人が関心を持って議論すること)

は、「これからの憲法」「私たちの憲法」を国民が持つことになるのだ、と私は思っています。

 憲法を「守る」のではなくて、憲法にもっと「命を吹き込む」ことによって、「私たちの憲法」にするのです。


 96条改正を言う論者の中にも、私がこの記事で述べるのと根っこでは共通した願いを持った人がいるのではないか、と思っています。
 「憲法に国民が関心を持って、勉強して、議論して、考えて欲しい」と。
 
 その方法論についての問題ですが、しかし、「改正ルールの緩和」というのは私は筋違いだと思っています。

 確かに、投票行動をきっかけに、というのは有力な手段とは思いますが、であるなら、例えば、直ちに憲法改正という効果をもたらすわけではないが、国会が施策の「参考」にするための、別の制度での「国民投票」というものを行う方法もあるかもしれません。

  
 ともかく、96条改正には反対ですが、みんなで「私たちの憲法」を考える、というのは大事なことだと思っていますので、私もできるかぎり、その為に良いことを考えてやっていきたい、と思っています。

                                     村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所
 
前の10件 | - 時事ニュースから ブログトップ