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ロースクール生のことを考えると…~司法試験合格者問題 [司法試験]

 私は,甲南ロースクールの先生をしている。週一コマのゼミだけだが,ロースクール生の生活の一端をいつも見ている。

 この度の,鳩山邦夫(民主党ユッキーさんの弟。邦夫さんは自民党。)法務大臣の発言と,私の鳩山大臣に賛成する文章に対して,

「ほんなら,俺らのこと,どうしてくれるねん!?話が違うやないか。」

というロースクール生の声が聞こえてくる。

 それもそのはず,ロースクール生は,みんな,

「これからは,アメリカみたいに,ロースクールを出れば今までよりチャンスの拡大した試験を経て,弁護士になれるよ。」

「○○法科大学院で,ローヤーになろう!」

という謳い文句を信じて,ある人は会社勤めをやめ,また,ある人は家族と大げんかをして,また,多くの人が借金もして,ロースクールに入って,司法試験合格に将来を賭けているのだ。

 私とて,司法試験を受験していた当時,特に合格一年以内のころは,相当しんどく,かなり重いプレッシャーとの戦いであった。そのときの気持ちを思い出すと,ロースクール生ひとりひとりの立場を思わずにおられない。

 

 さて,そうかといって,私には,「司法試験の合格者を3000人に増やす」という政府方針に従っていくのがとても良いと思えない。

 現実的な問題として,

・ それほどの需要がない。また,「(訴訟などの)需要を創り出す」ことは基本的に必要がない。

 また,弁護士が「予防」的な仕事に積極的に関わるべき,という論に私は賛成だが,それをすすめて成功すると,トラブルや訴訟など時間のかかる仕事が減る(つまり,歯磨きの方法が普及すると虫歯が減るのとおなじ)のであるから,結局,「弁護士の需要」がそう増えるわけではない。また,それが理想だ。

・ 増員に対して,それにみあった研修システムが整備できないから,「質の低下」は避けられない。

  少なくとも今の司法にかける国家予算を考えたとき,今の1500人でさえ,十分な研修システムを構築することは無理であり,3000人などになったら恐らく目も当てられない状態だろう。

  また多くを通す,ということは,どうしても質が低下するということが避けられないことだ。ロースクールが教育内容について努力することは良いが,そんなことくらいでとても覆らないものはある。

・ 「3000人に増やしたうえで,競争によって淘汰されればよい」意見について。私は全ての「競争」に反対する訳ではない。イチロー対松坂のような質の高い競争は良いことだと思う。だが…

  上の「需要はそれ程増えない」こと,「質の低下」のなかでの,競争は低レベル,過当競争になり,「安かろう悪かろう」弁護のオンパレードになる。

  そして,その「善し悪し」はユーザー(市民)にはなかなか見抜けない。

・ 弁護士の就職難,修習生の不合格者増大からはじまって,上のような事態に向け,おそらく急速に事態は進む。(あるいは既に現れている。)

と考えられるからである。

 これは司法制度全体の在り方,また,司法制度が市民の権利を守るとすれば,権利社会における市民の安心・安全をいかにして守るか,という大きな問題だ。

 

 私はこう考えている。

「今いるロースクール生に対して,極力,予想外の不利益を与えない形で,ただちに,司法試験合格者3000人方針を見直すべきである。 

 そのためには,もうここ数年がリミットである。」

 

 つまり,上のように今現にロースクールに入った人を「裏切る」ことを国はすべきではない。 

 たとえ,「司法制度の健全な発達」のためであれ「市民生活」のためであれ,また,ロースクール生は国民人口から比べればいかに少数とはいえ,国策によって,人を振り回し,予想外の不利益を与えて,人の人生をむちゃくちゃにする権利はないはずだ。そんなことは,「多数の横暴」である。

 ロー生が卒業まで3年・受験3回までということを考えると,今後6~7年については,もちろん最低水準をきちっと確保した上ではあるが,ある程度予定に近く合格させるしかない,つまり「急な人数抑制」は無理だ,と思う。

 ただし,ロー生は覚悟しなければならない。こんな状況での合格は現ロー生にとっての「バラ色の未来」を意味しない。今後6~7年における急激な司法社会の変化,弁護士の経済的・在り方的変化の波の中で,合格者こそが大混乱のなかでも,一番大変な立場として弁護士の世界に飛び込むことを避けられない。

 

 だとすれば,弊害をなくすため「人数抑制」あるいは,政府方針「3000人」の大転換をして,それを仕組みとして運用することは,早くても7年後からしか実行が難しい,これが現実ではないかとおもう。

 そして,これから今年もまた,来年入学のロースクール入学試験がどんどんはじまることを考えると,

「司法試験合格者3000人方針は抜本的に見直します」

ということを早くハッキリ政府が打ち出さないといけない。そうでないと,また次のロースクール1年生が誕生してしまうからである。

 これを,ハッキリ早く打ち出さないと大変なことになる。

 司法界が本当に大混乱に陥ってしまうとえらいことになる。それは,当たり前として,それを直そうとしたときには,もう「今いるロー生の立場を考える」などという余裕が無く,いきなり,政府が

「来年から司法試験の合格者を半減させます」

と言うとか,そういう,ロースクール生にしたら「国家的詐欺だ」「聞いてないよ!!」という横暴をせざるを得なくなると思われるからだ。

 

 だから,今の,また,将来のロースクール生の立場を考えるならば,

「早く,司法試験合格者3000人方針の見直しを政府が明言する」

ことはむしろ必須だと思う。


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wakuwaku_44

なんで「定員制」みたいなことをしているのか、私は理解不能です。
大学や高校のように「机やいすの数、教室・教員という、物理的な制約」があるならばともかく、「国家資格」なんですから『能力があるかどうか』だけで合格を決めればいいのに、って思いますけどね。

ただ、私は日本の国家資格はあまり信用していないんです。
「頭でっかち」を合格させながら「異論の排除」で有能な人を切る。こんな国家資格は必要ないと思います。従って、司法試験、公認会計士、税理士といった専門的技能や知識等が必要な技術職以外の国家資格は、一度全廃すべきだと思いますね。

私が望む司法試験改革は、司法試験自体は専門知識を必要とするものですから資格として必要だと思いますが、「頭でっかち」を合格させない仕組み、資格更新制度の導入を求めたい。
これは、「実際の活動実績」もしくは「学会論文」で計りたいと思います。

裁判官と検察官は国民審査制度の充実で。特に裁判官リコール制度を憲法改正で実現したい。
弁護士については「活動実績」もしくは「論文」で。

この制度を入れれば、「頭でっかち」の場合、最初の試験は通っても、ランニングできませんから、「資格を失う」ことになります。
こうすれば、村上さんが懸念なさっている「弁護士の就職難」にも対応できるかと。(つまり「資格を持ち続けることは大変なんだよ」というのがわかれば、本当に志がある人だけが受けるようになる、ということです。)

まぁ、穴開きまくりの考えなので、ツッコミ入れてくださいませ。(笑)
by wakuwaku_44 (2007-09-11 15:44) 

hm

wakuwakuさん

 いつもありがとうございます。
 
 しかし,今日のは厳しいです。
 なぜなら,私こそが「頭でっかち」に他ならないからです。 笑

 いやいや,多分言われている「頭でっかち」は,人の感情面を全く理解しないとか,または,知識は豊富だが柔軟な思考にかけるとか,そういう意味だと思います。
 ただ,司法試験は,少なくとも知識だけで受かるのは相当難しいだろうと思います。柔軟な思考力がなければ,合格はかなり奇跡的な確率になるのだろうと思います。


>「国家資格」なんですから『能力があるかどうか』だけで合格を決めればいいのに、

 これもそう思います。
 
 で,実は,今の政府方針でも,建前はそうなっているのです。「3000人に増やすのを目標にするけれども,必要な能力が確保されるようにしなければならない。」つまり,能力が水準に達していない人が多ければ,3000人には出来ないし,それでやむを得ない,と書いてあるのです。
 でも,政府のように「3000人」って数字を出しちゃうと,受け取る側はやっぱり都合良く解釈しちゃうのが無理ないんですね。
 結果,この政府方針の場合は,wakuwakuさんの発想とは真逆の流れになる,と。

 ただ,人数制でなくて,絶対基準制(wakuwakuさんの提案)にすると,そのラインをどうするか?が難しい。
 「自分に甘く他人に厳しい」私に言わせると,

私の頃の700人時代の頃の合格レベルの答案を書けない人は不合格にしよう(その結果,合格が300でも3000でもいいことにするけど,多分実際には数百人にとどまるでしょう)

ということになるのですが,別の思惑を抱く人は,市民の安心など顧みず自分の損得に合うように「これくらいでいいじゃないか」というライン設定を主張するでしょう。そして,結局,自分の思い描く将来像(つまり結局は人数などの大枠)に近い結果が出やすいライン設定権限の取り合いになるんだろうな,と思います。

 とはいえ,とはいえ,私も本質的にはwakuwakuさんの言われる

絶対能力制(人数定員制ではなくて)

がほんまやろう,と思います。それで,結局,多分私が言う「適正な人数」の検討結果と,wakuwakuさんのいわれる能力水準の適正確保の結果とは,案外近いものになるのかな?という気もします。

 ただ,弁護士の評価制度,また免許更新制みたいな…のはキツイですよ正直…本来業務に専念していれば,自然とクリアできるようなものなら,別に苦になりませんが…本来業務以外に力を割かなければならないようだと厳しい…また私のような「反政府的言動」を繰り返す人が不利益を受けたりはしませんでしょうか?たまに政府を褒めたりもするし,逆に革新政党や革新団体に対して批判をしたりもするから許してもらえるでしょうか 笑
by hm (2007-09-11 16:18) 

wakuwaku_44

村上さんへ

さすが関西人ですな。(笑)

>ただ,司法試験は,少なくとも知識だけで受かるのは相当難しいだろうと思います。柔軟な思考力がなければ,合格はかなり奇跡的な確率になるのだろうと思います。

私、法学部だったので、司法試験の内容は、大筋は知っているんですよ。(汗)
とはいっても、司法試験を目指していたわけじゃないんで、具体的な中身までは知りませんから、「頭でっかちが合格しにくいようになる」という状況さえ生まれてくれれば、という願いだけです。
改正する必要があればすればいいし、必要なければしなくてもいい。「今の制度が悪いから絶対に変えろ!」というわけでもありませんので。(脂汗)

>本来業務に専念していれば,自然とクリアできるようなものなら,別に苦になりませんが…本来業務以外に力を割かなければならないようだと厳しい

資格更新制度というのは、「本来業務に専念している人が自然とクリアできる」もんじゃないと設置する意味ないですよ。(笑)
『本来業務をしないのに、ただ資格を持っているだけ』というのを防ぐのが最大の目的なんですから、「本来業務以外に力を割かなければならない」なんていうのは論外。
むしろ、「テレビばっか出ないで、本来業務せいや!」ですね。(笑)

>また私のような「反政府的言動」を繰り返す人が不利益を受けたりはしませんでしょうか?

マジメに言えば、そんなことがないように、「資格更新制度の更新基準」を明文化して法制化すべきでしょうし、もちろん「更新できなかった」場合の異議申し立てを確保しなければなりません。理由の公開も必要でしょう。

と、マジメに言えばそうですが・・・。

ひとことで言えば、外山恒一氏の政見放送がそのまま流れる世の中ですから、村上さんが考えるような「反政府」ぐらいで資格停止はないでしょう。

それに、そんなことで不利益を被るとなると、とても警察官とは呼べない「あぶない刑事」や、装甲車と戦って勝った「西部警察」はドラマとして成り立たない世の中になりますね。
釈由美子が主演した弁護士ドラマ(あまり見てないから、題名忘れました・・・。)も成立しなくなる・・・・。
wakuwaku_44的に困ることになるので、そういうのは猛反対ですね。
by wakuwaku_44 (2007-09-11 23:21) 

心如

 今日のニュースをみると、新司法試験の合格者は1851人で、3000人まで増やす予定と報道されていました
 安倍総理大臣の辞意表明により、自民党の派閥争いが始まったようですので、方針の見直しがあるのかどうかも流動的ではないかと思われます
by 心如 (2007-09-13 19:24) 

hm

小父蔵さん

 そうですね。あれは、鳩山大臣の独自のお考えで、法務省そのものはそんなこと全然考えていませんからね。

 弁護士も大変でしょうが、市民の皆さんも大変です。
「弁護士を選ぶのも自己責任」でいいか、大いに疑問があります。
by hm (2007-09-13 20:58) 

wakuwaku_44

村上さんへ

>「弁護士を選ぶのも自己責任」でいいか、大いに疑問があります。

弁護士に限らず、こういうのは「程度問題」でしょうね。

自己責任を問うのであれば、情報開示は必須です。情報も何もないのに「さぁ、選べ」って言われても選べるもんじゃない。
それに、どんな仕事も「専門性」というのがありますから、いくら情報を提供されても、専門家でもない人が、その情報を十分に理解し吸収することができません。
それゆえに、「自己責任ですよ」と言い切るわけにはいきません。

ただ、「最後の決定」は、これは本人にしてもらわないといけない。本人の理解と納得を経て、本人の責任で選択しなければ、「他人任せ」に陥ることもあれば、「仕事をする上での相互信頼」の欠如をもたらす怖れもあります。
ということは、「自己責任の部分もあるよ」という要素も、国民のためにこそ残しておかなければならない。

そのさじ加減というか、プロセスを、もっと具体的にイメージングして、全体像で取り組まないと、結局、国民が不幸になると思います。


鳩山邦夫法務大臣の発言の最大の問題点は、「アバウトすぎる」というところでしょう。
例えば「合格者を『定数』ではなく、『及第点に達した人』とする」という変更点を条件に「だから、今後3000人ぐらいを目指したい」というのであれば、プロセスやエビデンスが明確ですから、「数を増やしても質が落ちるってことはないんだな」っていう安心感はありますけど、ただ「3000人にする」って言ってしまったら、そりゃ心配になります。
by wakuwaku_44 (2007-09-14 00:42) 

hm

wakuwakuさん

 前半部分は当たり前(すぎる)。
 最初から,誰もみなそれを前提にして,「程度をどのへんにするか?」の話をしているのです。

 後半鳩山大臣は「3000人にする」などと言っていません。
 それは,私の記事でも引用のニュースでも明らかです。
 逆です。
 
 少しキツイ書き方をしましたが,要するにその日記の論点の焦点とずれること,あるいは,前提となる事実(それも読めば分かる事実)を十分読まず,コメントされると,人が不快になることは多いと思います。
by hm (2007-09-14 09:58) 

wakuwaku_44

村上さんへ

大変申し訳ございません。
前提条件が間違っていましたね。大変失礼いたしました。


こういう誤解をするということは、私も自民不信なんでしょうね・・・。別に特定の政党に不信とかそういう感情はあまりないんですけど。
by wakuwaku_44 (2007-09-14 11:55) 

hm

wakuwakuさん 
 
 どうかお気になさらず。
 まあ,ちょっとお互い肩の力を抜いていきましょう。
 いつも力作のコメントをいただいていますが,まあ所詮,他人のブログなので,かる~くやっていただいてもいいのでないかな,と思ったりもします。
by hm (2007-09-14 13:16) 

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